【書籍】カイゼンジャーニーを読み終えて|感想|アジャイル開発の現場におくる
「カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで」を読み終えての気づきをご紹介します。本書はたった1人から「ソフトウェア(アジャイル)開発の現場」をより良い方向へと変えて行くための方法が丁寧に紡がれています。
- 作品:カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで
- 出版社:翔泳社 (2018/2/7)
- 著者:市谷 聡啓、新井 剛
- ISBN-10:4798153346
カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで |感想|要約はしません
ソフトウェア開発の現場をカイゼンしたいと思っている一人ひとりに対して、大きな勇気を与える著書となっています。
今の現場で多くの問題があることが明らかでありながら、カイゼンをしたいと思っているのが自分だけの場合、なかなか一歩を踏み出すことが難しいものです。
また、複数の人が思っていても、何らかの制約があったり、あまりに忙しく手が回らず、今のままで仕方ないと諦めてしまうことも多いものです。
急にキラキラとしたアジャイル開発の世界に行くことはもちろん難しいです。ですが、一人から一歩ずつ歩んで行く多くの方法、手段を本書は提供してくれます。現場で起こりうる問題をストーリー形式で紹介されており、その解決策も丁寧に描かれています。
「アジャイル」関連で名著と言われる書籍は海外のものが多くなっています。そのうちのいくつかは和訳版が出版されています。しかし、海外の文化的な文脈がコンテキストとして暗黙的に存在する前提で書かれています。
一方、本書の表紙では下記の記載があります通り、日本発の日本の現場向けとなっており、貴重な良書と言えます。
「日本の現場」に寄り添ったアジャイルの実践
カイゼン・ジャーニー
感想:★★★★★(最高)
最高のチームを生み出すための「種を育てる」至高の書籍となります。
私もいまの開発現場のやり方にもやもやしていて。。
でも、何から手をつけていいか分りませんでした。。
チームメンバーの理解がない、お客様との契約関係で難しい、
開発手法が古い、などの高いハードルで諦めがちな人は多いものです。
本書は「カイゼンしたいと気づいた人が一人から始める」指南書です。
「要約」は要点を整理して短縮版とすることですが、私が勝手に要点がここだとするのは恐れ多いため、要約まではしません。その代わり、私の気づき、感想を書いています。
カイゼンジャーニー 著者 市谷 聡啓 さん
市谷さんを私からご紹介するのは恐れ多いため、下記の各種サイトをご覧ください。
市谷聡啓 / Toshihiro Ichitani 公式サイト | https://ichitani.com/ |
ギルドワークス株式会社 ギルドワークス代表 | https://guildworks.jp/member/1.html |
市谷 聡啓について:CodeZine(コードジン) | https://codezine.jp/author/1812 |
DevLOVE|開発を愛する人たちのコミュニティ | https://devlove.link/ |
カイゼンジャーニーの目次
- 第1部|一人から始める
- 第 01 話|会社を出ていく前にやっておくべきこと
- 第 02 話|自分から始める
- 第 03 話|一人で始めるふりかえり
- 第 04 話|一人で始めるタスクの見える化
- 第 05 話|明日を味方につける
- 第 06 話|境目を行き来する
- 第 07 話|二人ならもっと変えられる
- 第 08 話|二人で越境する
- 第2部|チームで強くなる
- 第 09 話|一人からチームへ
- 第 10 話|完成の基準をチームで合わせる
- 第 11 話|チームの向かべき先を見据える
- 第 12 話|僕たちの仕事の流儀
- 第 13 話|お互いの期待を明らかにする
- 第 14 話|問題はありませんという問題
- 第 15 話|チームとプロダクトオーナーの境界
- 第 16 話|チームとリーダーの境界
- 第 17 話|チームと新しいメンバーの境界
- 第 18 話|チームのやり方を変える
- 第 19 話|チームの解散
- 第3部|みんなを巻き込む
- 第 20 話|新しいリーダーと、期待マネジメント
- 第 21 話|外からきたメンバーと、計画づくり
- 第 22 話|外部チームと、やり方をむきなおる
- 第 23 話|デザイナーと、共通の目標に向かう
- 第 24 話|視座を変えて、突破するための見方を得る
- 第 25 話|広さと深さで、プロダクトを見立てる
- 第 26 話|チームで共に越える
- 第 27 話|越境する開発
読了後の姿
一人からカイゼンしていく勇気の兆しを持っている。
一人から始め、チームで強くなり、みんなを巻き込むというストーリーを疑似体験している。
良いチームを育てて行くための様々なプラクティス、理論を手段として知っている。
スクラムにおける多くの要素を理解している。
書籍『カイゼン・ジャーニー』という味方が1人増えている。
対象の読者|ソフトウェア開発とアジャイルの流儀のスクラム
ソフトウェア開発に携わる人の中でチームでの活動に課題感を持っている人が対象の読者となります。
特に、ウォーターフォール開発でカイゼンしたい人、アジャイル開発を始めたい人、アジャイル開発を始めているがうまくいっていないと感じている人におすすめします。
本書ではアジャイル開発のフレームワーク(流儀)として「スクラム」が採用されていますが、チームの成長に重きが置かれているため、スクラムを導入していない方にも役立つ内容となっています。
名言をご紹介
それで、あなたは何をしている人なんですか?
カイゼン・ジャーニー
これはかなり重たい問いです。
定期的に、、、3ヶ月に1度程度の頻度で自分に対して問いたいと思いました。
これをいつ聞かれても即答できたなら、自分たちがどこに向かい、どんな課題感があり、それい対して具体的にどうアクションしているかがわかっているといういことと同義でしょう。
一人ひとりがこの問いに答えられたなら、そのチームは相当な強さ、変化への適応力があると言えます。
気づきとプラクティス
スクラムの要素の多くが入っている
本書では主人公たちが「スクラム」に取り組んでいます。スクラムをゴリ推ししているのではなく、近年、スクラムを導入しているアジャイル開発の現場が多いためストーリーに採用されたようです。
そして、スクラムにおける「ロール」、「イベント(アクティビティ)」などが多く入っているため、本書を読むだけでスクラムがどのようなものなのか分ります。
また、スクラムの要素の一つである「インペディメントリスト(Impediments:障害物)」は登場しません。これはスクラムマスターの持ち物であり、チームがスプリント単位にインクリメントを開発するにあたって、取り除くべき阻害要因(障害物)のリストです。本書のスクラムマスターはこれにとりかかる前に去ってしまいましたが、真のスクラムマスターはチームのカイゼンの後に組織のカイゼンに取り組みます。組織の次は業界をも変えると言われています。きっと、その後は国を変える、世界を変えるということになると夢見ています。いつか、国のリーダーが元スクラムマスターという時代が来るかもしれません。
カイゼン・ジャーニーもチーム・ジャーニーも、チームの外にいるマネージャーや組織の関わり方や問題についてあまり取り扱われていません。人や組織や環境のせいにして不満を言ってるだけにならず、チーム(私たちは)や自分(私は)を一人称としてカイゼンを頑張る、ということに重きを置いているのではないでしょうか。
状態の見える化から始めよう
こちらにはとても共感しました。何があるかわからない、どれだけのタスクがあり、どんな課題や問題があるかがわからないとカイゼンしようがないからです。
「見える化」をスクラムの言葉では「透明性」に近いと考えています。周りが見えていないと、どこの方向を向いて良いか分からないためアジャイルな状態にはなれません。
アジャイルになる前に、スクラムを始める前に、「状態の見える化」から始めるということはとても理にかなっています。
ドラッカー風エクササイズ
書籍『アジャイルサムライ』でも紹介されているプラクティスで、下記の4つの質問で構成されています。
- 自分は何が得意なのか?
- 自分はどうやって貢献するつもりか?
- 自分が大切に思う価値は何か?
- チームメンバーは自分にどんな成果を期待していると思うか?
これらはチーム内の期待をマネジメントするために効果的な問いです。
チームの立ち上げ期に効果的ではありますが、成熟化しているつもりになっていても、案外、何を期待されているかわからないものであるため、遅すぎるということはありません。
星取表(スキルマップ)
星取表ではチームメンバーどのようなスキルを持っており、そのレベルを見える化します。これによって、得意なスキル、伸ばしたいスキル、習得したいスキルも分かるため、仕事のアサインや相談がしやすくなります。
気をつけたいこともあります。スキルに不安がある方は星取表を埋めることに抵抗を示すかもしれません。恥ずかしかったり、評価に影響すると考えるかもしれません。ただ、率直に見える化できないと星取表の効果も半減します。率直に埋められるようになるためには、心理的に安全な場にすることが大切です。
インセプションデッキ
インセプションデッキはチームの外側と内側の両方の期待をマネジメントすることができます。
WHYを明らかにする5つの問い、Howを明らかにする5つの問いで構成されています。
これを作成するにあたって最も大事なのは、マネージャーやリーダーが一人で作ってしまうのではなく、チームでつくることです。
10個の問いはどれもタフであるため、作り上げるのに時間がかかるでしょう。ですが、その過程でチームメンバーの思い、意思、考えが分かるでしょう。そして、自分たちがどこに向かうかについて、「自分たちで作った」という自信と責任が生まれます。
できあがったら、壁などに貼って誰でもいつでも見られるようにしましょう。チーム外のステークホルダーにも見せて、説明し、チームを理解してもらいましょう。
バリューストリームマップ
バリューストリームマップはプロジェクトの開始(企画段階)からリリースまでのフローの中で、どこにボトルネックがあるのか、無駄があるのか。課題があるのかを見える化します。
他に「未完成(Undoe)の定義」にも使うことができます。
本書ではおそらくシンプルにするために、スプリント期間内においてビルドして全体テストをしたら「リリース」するというフローとなっています。
何をもってして完成(終わった)とするかについて「完成(Done)の定義」というルールを定めるとありますが、スプリント期間内にやらない(やれない)が、リリースまでに完成させなければならないものを「未完成(Undoe)の定義」として扱います。
バリューストリームマップ上でスプリント期間後のタスクを洗い出すことができます。そのタスクについても見積ることができれば、リリースプランニングの重要なインプットとなります。
「完了の定義」と呼ぶことがありますが、「完成の定義」と同義です。また、完成を承認するための条件のことを「受け入れ条件(Acceptance Criteria)」と言います。
仮説キャンバス
仮説キャンバスは著者が開発したものです。これはユーザーの潜在的な課題に気づくためのフレームワークです。似たようなキャンバスとしては「ビジネスモデルキャンバス」「リーンキャンバス」「オポチュニティキャンバス」などがあります。
この仮説キャンバスもインセプションデッキと同様に複数名で作成するとより効果的です。当たり前だと思っていたことが違ったり、人によて見え方、捉え方、情報量が異なることに気づきます。
一緒に作成することで、何がわかって何がわからないのか、自分たちはどこに向かい、まず何をしなければならないのか分かるようになります。
ハンガーフライト
パイロットたちが、天候が悪く飛行機を飛ばせない際に、飛行機の格納庫に集まって、雑談等からノウハウを共有し合ったと言います。
平時であっても敢えて「ハンガーフライト」のような時間を儲けることは、中長期の視点で見ると効果的でしょう。
そして、昨今の情勢から急遽「半強制的に飛べなくなくなる状況」も多くあるでしょう。この時間を使って、忙しく何かに追われているときにはやりたくてもやれなかったことを、落ち着いてじっくり検討することもよいでしょう。
登場人物
一癖も二癖もある多くの登場人物がストーリーを奏でてくれます。自分の身の回り、過去に一緒に働いたこともある人に近い人物もいるでしょう。
少し、特殊な名付けとなっていますが、緩く「チーム・ジャーニー」とも繋がっておりますので、両方読む楽しさもあります。「チーム・ジャーニー」では登場人物のイラストがあり、よりイメージが膨らむ内容となっています。
カイゼンジャーニーの感想のまとめ
本書をKindleではなく「本」として手に取った方は感じたかもしれませんが、適度な薄さとなっています。これまでの筆者らやレビューアたちの数多の経験をもとにストーリーが描かれていますが、かなり凝縮されています。無駄なものがないというほどシンプルな構成となっています。
きっと、もっともっとたくさん学びを詰め込みたかったところ、削りに削られたように感じます。その中の一部は後続の著書である「正しいものを正しくつくる」や「チーム・ジャーニー」に組み込まれているかと思います。
それでは、ぜひ本書を手に取っていただき、最高のチームへのタネを育てていただけたら。
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